退去後に「原状回復費用35万円」――オーナーは全額負担するしかない?

投資用マンションを所有していると、入居者の退去は避けて通れません。

そこで起きやすいのが原状回復費用をめぐるトラブルです。

「管理会社から35万円の見積書が届いた」

「クロスを全部張り替えると言われた」

「入居者が傷をつけたのにオーナー負担と言われた」

「敷金から差し引けると思っていたのに、ほとんど請求できなかった」

こうしたケースでは、工事金額だけを見るのではなく、①損傷原因、②入居期間、③契約内容、④入居時・退去時の状態、⑤工事項目ごとの負担区分を分けて確認することが重要です。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復について一般的な費用負担の考え方が示されています。国民生活センターも、通常使用による損耗や経年変化については、原則として借主が原状回復を行う義務を負わないとの考え方を案内しています。

つまり、

「退去後に修繕が必要=すべて入居者負担」ではありません。

逆に、

「賃貸物件だから修繕費はすべてオーナー負担」でもありません。

何が原因で生じた損傷なのかを整理することがスタート地点です。


目次

【解決事例】ワンルーム退去後に35万円の工事見積書が届いた

※以下は相談内容を参考に一般化したモデルケースであり、特定の個人・法人・マンションを示すものではありません。

会社員のAさんは、東京都内に投資用ワンルームマンションを所有していました。

約5年間入居していた入居者が退去したため、管理会社へ退去立会いと次の入居者募集を依頼。

数日後、管理会社から原状回復工事の見積書が届きました。

合計金額は約35万円。

内容を見ると、

クロス全面張替え、床補修、ハウスクリーニング、エアコンクリーニング、建具補修、水回り補修など、複数の工事項目が並んでいました。

管理会社からは、

「次の入居者募集には必要な工事です」

と説明されました。

しかしAさんは疑問を感じます。

「35万円のうち、本当に自分が負担しなければならない金額はいくらなのか?」

そこで、見積書をそのまま承認するのではなく、契約書・入退去時の記録・損傷箇所・工事項目を一つずつ整理することにしました。


そもそも「原状回復」とは何なのか?

原状回復とは、部屋を新品の状態に戻すことではありません。

国土交通省のガイドラインでは、借主の故意・過失や善管注意義務違反、通常の使用を超える使用によって生じた損耗・毀損などを復旧するという考え方が示されています。

一方、

普通に生活して生じる通常損耗や、年月の経過による経年変化は、基本的に借主負担とは区別して考えます。

たとえば、長期間の居住によるクロスの日焼けと、入居者が不注意で壁に大きな穴を開けたケースでは、同じ「壁の補修」でも負担の考え方が異なります。


なぜ投資用マンションで原状回復トラブルが起きるのか?

最大の原因の一つは、

「工事が必要かどうか」と「誰が費用を負担するか」が混同されること

です。

次の入居者を募集するためにクロス交換が必要だったとしても、その工事費全額を現在の入居者へ請求できるとは限りません。

反対に、入居者の故意・過失による明確な損傷であれば、借主負担を検討できる場合があります。

国民生活センターも、原状回復をめぐって、壁紙・床・クリーニングなどの費用負担に関する相談事例を紹介しています。


【解決までの流れ】35万円の見積書を「項目別」に分解

Aさんが最初に行ったのは、

「35万円は高い・安い」という議論をやめること

でした。

代わりに、工事を項目別に分けました。

STEP1 管理会社へ工事内容の詳細を確認

「原状回復一式35万円」では判断できません。

そこで、

  • 工事項目
  • 数量
  • 単価
  • 施工範囲
  • 修繕理由
  • 損傷箇所の写真
  • 入居者負担予定額
  • オーナー負担予定額

を確認しました。

これだけでも、

「必要な工事」と「とりあえず見積もりに入っている工事」

を整理しやすくなります。

STEP2 賃貸借契約書と特約を確認

次に確認したのが賃貸借契約書です。

特に重要なのは、

原状回復・クリーニング・設備・特約

に関する条項です。

国民生活センターも、ガイドラインと異なる負担内容が特約として定められている場合があるため、契約書を確認するよう案内しています。

ただし、特約が書いてあるから必ずそのまま有効・請求可能という単純な問題ではありません。

具体的な有効性や請求範囲について争いがある場合は、契約内容や説明状況を踏まえ、弁護士等による個別確認が必要です。

STEP3 入居時と退去時の写真を比較

ここが非常に重要でした。

入居前から存在していた傷なのか。

入居期間中に発生したものなのか。

通常使用によるものなのか。

入居者の故意・過失による可能性があるのか。

写真やチェックシートが残っていれば判断材料になります。

国民生活センターも、入居時に傷や汚れを写真・メモ等で記録することを推奨しています。

STEP4 経年変化を考慮

Aさんのケースでは入居期間が約5年ありました。

そこで単純に、

「入居者が使用したから新品交換費用を請求する」

とは考えず、設備・内装材等の経過年数や損耗状況を踏まえて整理しました。

STEP5 必要工事とグレードアップ工事を分ける

さらに、

原状回復工事

と、

次の入居者を獲得するためのリフォーム・グレードアップ

を分けました。

たとえば設備を従来より高性能なものへ交換する場合、その費用すべてを退去者の原状回復費用として扱えるとは限りません。

国土交通省の資料でも、退去時に古くなった設備等を最新のものへ交換するなど、建物価値を増大させる修繕は区別されています。


結果|「35万円全部をどうするか」ではなく負担区分を明確化

資料を整理すると、

オーナー側で負担すべき通常損耗・経年変化に関係する部分

と、

入居者側の負担を検討できる可能性がある損傷部分

と、

次回募集のためにオーナーが任意で実施する改善工事

が混在していることが分かりました。

そこで管理会社へ工事内容の再整理を依頼。

必要性の低い工事や施工範囲も再検討し、工事内容と費用負担を明確にしてから発注することにしました。

この事例の最大のポイントは、

「35万円を払う・払わない」という二択にしなかったことです。

原状回復トラブルでは、

工事の必要性 × 損傷原因 × 契約内容 × 経過年数 × 費用負担者

を分けて整理することが重要です。


投資用不動産オーナーが確認すべき5項目

退去連絡を受けたら、最低限次の5項目を確認しておきましょう。

  1. 賃貸借契約書・特約
  2. 入居時の室内写真・チェックシート
  3. 退去時の写真
  4. 原状回復工事の明細・単価・施工範囲
  5. 入居者負担とオーナー負担の区分

特に避けたいのが、

「管理会社から見積書が来たから、そのまま承認する」

という対応です。

管理会社へ任せることと、オーナー自身が収支を確認しないことは別問題です。


原状回復費用は誰が負担する?

賃貸住宅の原状回復では、通常使用による損耗や経年変化と、借主の故意・過失等による損傷を分けて考えることが基本です。

投資用不動産オーナーは退去時に、

契約書 → 入居時写真 → 退去時写真 → 損傷原因 → 経過年数 → 見積明細 → 費用負担区分

の順に確認すると問題を整理しやすくなります。

また、

原状回復と、次の入居者を獲得するためのリフォームは別の問題

として考えることが重要です。

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」


再発防止策|退去時ではなく「入居時」から準備する

原状回復トラブルの対策は、退去時に始めるものではありません。

むしろ重要なのは入居時です。

室内の写真を残す。

設備の状態を記録する。

傷や汚れをチェックする。

契約書・特約を整理する。

管理会社に記録を保存してもらう。

これらを徹底しておけば、数年後の退去時に、

「この傷はいつできたのか」

という問題を判断しやすくなります。


よくある質問(FAQ)

Q1.退去時のクロス張替えはすべて入居者負担ですか?
いいえ。通常損耗や経年変化なのか、借主の故意・過失等による損傷なのかによって考え方が異なります。施工範囲や契約内容も含めて確認する必要があります。

Q2.ハウスクリーニング費用は入居者へ請求できますか?
契約書や特約の内容などによって判断が異なります。国民生活センターも、クリーニング費用等について契約書の特約を確認するよう案内しています。

Q3.管理会社の原状回復見積書が高いと感じたらどうすればいいですか?
総額だけで判断せず、工事項目・数量・単価・施工範囲・修繕理由を確認します。必要に応じて他社見積もりを取得する方法もあります。

Q4.入居時の写真が残っていません。どうすればいいですか?
管理会社が保管している入居時チェックシート、募集時写真、過去の修繕記録などがないか確認します。資料が不足するほど損傷時期の判断が難しくなるため、今後は入退去時の記録保存が重要です。

Q5.入居者と原状回復費用でもめた場合はどうすればいいですか?
まず契約書、写真、見積書、損傷状況等を整理して協議します。解決しない場合や請求額が大きい場合は、弁護士等の適切な専門家への相談を検討してください。

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