結論|「営業担当者に言われたから」で虚偽の融資申告をしない
投資用マンションの営業担当者やローン担当者から、
「この年収だと審査が厳しいので少し多めに書きましょう」
「他の借入れは書かなくても大丈夫です」
「自己資金がある形にしておきます」
「銀行にはこの内容で説明してください」
などと言われた場合は、非常に慎重な対応が必要です。
融資申込書は、
物件を販売する不動産会社に提出するための書類ではなく、金融機関が融資判断をするための重要な資料
だからです。
不動産会社から指示されたとしても、実態と異なる内容を自分で申告・提出すれば、後になって、
「営業担当者に言われただけ」
では済まない問題になる可能性があります。
すでに購入している場合は、慌てて書類を捨てたり不動産会社だけと話を進めたりせず、
誰が・いつ・何を指示し、金融機関へ実際に何が提出されたのか
を確認することが第一歩です。
【事例】年収520万円の会社員が3,280万円のワンルームマンションを購入
35歳の会社員Aさんは、不動産会社から東京都内の中古ワンルームマンションを紹介されました。
販売価格は、
3,280万円。
Aさんの年収は、
約520万円。
預貯金は、
約120万円。
営業担当者からは、
「会社員なら不動産投資ローンが使えます」
「家賃収入があるので、ローン返済の負担はそれほどありません」
と説明されました。
Aさんは興味を持ち、ローンの事前審査へ進みます。
ところが数日後、営業担当者から、
「この内容だと希望額まで融資が出ない可能性があります」
と言われました。
「年収は650万円という形で出しましょう」
営業担当者はAさんへ、
「副業収入なども含めて年収650万円という形で申告しましょう」
と提案。
さらに、
「預金ももう少しある形にした方が審査が通りやすい」
「こちらで銀行提出用の資料を作ります」
と言いました。
Aさんが、
「源泉徴収票を見れば年収は分かるのでは?」
と聞くと、
「融資担当者とはこちらで話をしているので大丈夫です」
と説明されました。
Aさんは不安を感じましたが、
「不動産会社がやっているなら問題ないのだろう」
と考え、そのまま手続きを進めてしまいました。
融資は承認され、物件を購入しました。
購入から3年後、収支が悪化
購入後、Aさんの収支は営業担当者から聞いていたほど安定しませんでした。
購入当初の家賃は、
月額101,000円。
しかしその後、
管理費・修繕積立金の増額、
設備交換、
賃貸管理費、
固定資産税等
が重なり、
実質的な持ち出しは、
月約28,000円
まで増加しました。
年間では単純計算で、
約33万6,000円。
さらに勤務先の残業が減り、収入も低下。
Aさんは、
「この物件を売却したい」
と考えるようになります。
売却査定で判明した「ローン残高との差」
Aさんが複数社へ査定を依頼すると、
現在の査定価格は、
2,550万円~2,700万円程度。
一方、ローン残高は、
約2,940万円。
仮に2,650万円で売却しても、
ローン残高との差は単純計算で、
約290万円。
さらに売却諸費用も考える必要があります。
Aさんは、
「なぜ自分はこれほど大きな借入れができたのだろう?」
と疑問を持ち、購入時の資料を見直しました。
そこで思い出したのが、
融資申込時の年収と自己資金の話
でした。
【問題点①】融資申込書は誰のための書類なのか?
不動産投資初心者が理解しておきたいポイントです。
金融機関は、
年収、
勤務先、
勤続年数、
他の借入れ、
預貯金、
物件価値、
家賃収入、
返済能力
などを総合的に確認して融資を判断します。
したがって、
「ローンを通すためだから多少違ってもよい」
というものではありません。
事実と異なる情報を提出することは、融資契約上・法的にも重大な問題となる可能性があります。
特に、
年収、
勤務先、
自己資金、
他の借入れ、
預金残高
などは金融機関の与信判断に関係する重要情報です。
【問題点②】「不動産会社が作った書類だから自分には関係ない」は危険
Aさんは、
「書類を作ったのは不動産会社だから、自分は関係ない」
と考えていました。
しかし、金融機関との借入契約の当事者はAさんです。
そのため、
誰が資料を作成したか
だけでなく、
Aさんが何を認識していたか
どの資料へ署名・同意したか
金融機関へどの情報が提出されたか
を確認する必要があります。
逆に、Aさんが知らないところで資料が変更されていたのであれば、
それを確認できる証拠
が重要になります。
つまり、
「誰が悪いか」を先に決めるのではなく、「何が提出されたか」を先に確認する
ことが重要です。
【解決までの流れ①】購入時の資料をすべて保存する
Aさんはまず、
売買契約書、
重要事項説明書、
ローン契約書、
融資申込書の控え、
源泉徴収票、
預金通帳、
購入時の収支シミュレーション、
営業担当者とのメール・LINE
を集めました。
特に重要だったのが、
営業担当者から送られていた、
「銀行にはこの内容で説明してください」
という趣旨のメッセージでした。
不動産トラブルでは、
記憶を証拠へ変える
ことが重要です。
【解決までの流れ②】「本当の数字」と「提出された数字」を並べる
次にAさんは購入当時の状況を表にしました。
実際の年収
約520万円
営業担当者から言われた申告年収
約650万円
実際の預貯金
約120万円
銀行提出資料に記載された自己資金
それより大きい金額
このように、
実際の情報
と、
金融機関へ提出された可能性のある情報
を分けて整理します。
ここで重要なのは、分からない数字を推測で埋めないことです。
確認できないものは、
「未確認」
として整理します。
【解決までの流れ③】不動産会社へ先に証拠を渡しすぎない
Aさんは最初、
営業担当者へ、
「年収を多く書かせましたよね?」
と電話しようとしました。
しかし、まず資料を整理することにしました。
融資資料をめぐる問題では、
どの資料がどこに残っているか
が重要になることがあります。
そのため、相手方との交渉を始める前に、
LINE、
メール、
契約資料、
当時の源泉徴収票、
銀行関係書類
などを保存しておくことが重要です。
個別案件で金融機関への申告内容や法的責任が問題になり得る場合は、弁護士等へ相談し、対応順序を確認することも考えられます。
【解決までの流れ④】「融資問題」と「物件の赤字」を分ける
Aさんには2つの問題がありました。
一つは、
購入時の融資手続に問題がなかったか。
もう一つは、
現在、毎月約2万8,000円の赤字物件をどうするか。
この2つは分けて考える必要があります。
融資問題について調査・相談している間も、
ローン返済は続きます。
そのため、
法的問題が解決するまで物件を放置する
のではなく、
現在の投資収支も同時に確認します。
【投資知識】返済比率とは?
投資用不動産ローンを理解するうえで知っておきたい言葉です。
返済比率とは、収入に対して年間のローン返済額がどの程度を占めるかを見るための指標の一つです。
ただし金融機関ごとに審査方法や計算方法は異なり、
投資用ローンの場合は、
家賃収入、
既存借入れ、
物件評価、
勤務先、
資産状況
なども考慮されます。
投資家として重要なのは、
「銀行が貸してくれる金額」と「自分が安全に返せる金額」は同じではない
と理解することです。
【解決までの流れ⑤】売却だけでなく「自己資金不足額」を計算
Aさんは現在の査定価格とローン残高を比較しました。
仮に、
売却価格 2,650万円
ローン残高 2,940万円
なら、
単純差額は、
290万円。
ここに売却諸費用等を考慮すると、売却時にさらに資金が必要になる可能性があります。
つまり、
「赤字だから売却したい」
と思っても、自由に売却できるとは限りません。
そこで、
現在売却、
一定期間保有、
繰上返済後の売却
など複数のシナリオを比較しました。
【専門用語】オーバーローンとは?
オーバーローンとは、一般に物件の売却可能価格より住宅・不動産ローン残高の方が大きい状態をいいます。
例えば、
現在査定2,650万円、
ローン残高2,940万円
なら、単純比較では、
290万円のオーバーローン
です。
実際には仲介手数料等の売却費用も考慮します。
投資用マンションのトラブルでは、
購入時の問題を調べること
と、
現在のオーバーローンをどう解消するか
を並行して考えることが重要です。
【解決結果】証拠を確保し、融資経緯を相談しながら出口計画を設定
今回のモデルケースでは、
Aさんは購入時の融資資料、
源泉徴収票、
LINE、
メール、
契約書類
を保存。
実際の年収・資産状況と、金融機関へ提出された内容に相違がなかったか
を確認するため、専門家へ相談しました。
同時に物件については、
現在家賃、
毎月収支、
ローン残高、
現在査定、
今後の修繕費
を再計算。
直ちに売却すると多額の自己資金が必要となる可能性があったため、
法的・契約上の問題を確認しつつ、ローン残高と売却価格の差を縮める出口計画
を立てました。
ここでの解決ポイントは、
「融資がおかしかったから全部解決するはず」と考えず、契約問題と資産運用問題を同時に整理したこと
です。
不動産会社が行政処分を受けていないか確認する方法
宅建業者について問題が疑われる場合、
監督処分情報
を確認する方法もあります。
国土交通省 関東地方整備局は、消費者の不動産取引の安全確保や違反行為の抑止などの観点から、宅建業者に対する免許取消・業務停止・指示処分等の情報を公表しています。国土交通省建設研究所
ただし、
処分歴がない=問題のない取引だった
という意味ではありません。
逆に、処分歴があるだけで自分の契約にも同じ問題があったと判断することもできません。
あくまで確認材料の一つです。
要点整理
投資用不動産ローンの虚偽申告とは、融資審査において年収・勤務先・自己資金・預金残高・既存借入れ等について、実態と異なる情報を金融機関へ申告・提出することを指します。
不動産会社から虚偽申告や書類変更を指示された疑いがある場合は、
証拠保存 → 当時の実際の年収・資産確認 → 融資申込資料確認 → 金融機関へ提出された情報の特定 → 契約内容確認 → 専門家相談 → 現在収支確認 → ローン残高確認 → 現在査定 → 出口戦略検討
という順番で整理します。
特に重要なのは、
- LINE・メールを削除しない
- 当時の源泉徴収票を保存する
- 当時の預金残高が分かる資料を保存する
- 融資申込書の控えを確認する
- 誰が資料を作成したか確認する
- 誰が金融機関へ提出したか確認する
- 自分が何を認識・署名したか確認する
- 不明な点を推測で埋めない
- 現在のローン返済を放置しない
- 現在査定とローン残高を比較する
ことです。
「融資が通った=安全な投資」ではありません。金融機関の融資可能額と、投資家自身が無理なく保有できる金額は別の問題です。
再発防止|ローン申込みで絶対に確認したいこと
投資用マンションを購入するときは、
年収
勤務先・勤続年数
預貯金・自己資金
他の借入れ
家賃収入
などについて、金融機関へ正確な情報を申告することが基本です。
特に、
「銀行には言わなくていい」
「こちらで数字を調整する」
「みんなこうやってローンを通している」
「融資担当者と話がついている」
と言われた場合は、その場で手続きを進めず内容を確認してください。
2026年5月20日に国民生活センターが公表した投資等をめぐる借入れの注意喚起でも、業者の説明を信じて借入れをした場合であっても、原則として借入れの返済義務は借りた消費者が負うことが改めて注意されています。国民生活センター
国民生活センター「副業サポートや投資の名目で借金させる業者に注意!」
FAQ
Q1.不動産会社から「年収を多めに申告すればローンが通る」と言われました。従って大丈夫ですか?
従うべきではありません。金融機関へ提出する年収・資産・借入状況等は正確に申告することが基本です。事実と異なる申告を求められた場合は手続きを止め、必要に応じて金融機関や専門家へ確認してください。
Q2.不動産会社が勝手に融資資料を書き換えた可能性があります。どうすればいいですか?
まず当時の源泉徴収票、通帳、融資申込書、メール・LINE等を保存してください。そのうえで金融機関へ実際に何が提出されたのかを確認する方法を検討します。法的責任が問題になり得る場合は、対応順序も含め弁護士等への相談が適切です。
Q3.営業担当者に指示されて自分で虚偽の内容を書いてしまいました。
自己判断で「自分は被害者だから問題ない」「すべて無効になる」などと決めつけないことが重要です。何を記載し、何を認識し、どのような指示を受けたのかを証拠とともに整理し、弁護士等へ相談してください。
Q4.融資に問題があればローンを返さなくてよくなりますか?
一律には判断できません。国民生活センターも、業者に勧められて借入れをした場合でも、原則として借入れに対する返済義務は借りた消費者が負うと注意喚起しています。国民生活センター 個別案件は融資契約や具体的事実によって判断が異なります。
Q5.物件が毎月赤字です。すぐ売却すべきですか?
まず現在査定とローン残高を確認してください。売却価格よりローン残高が大きい場合、売却時に自己資金が必要になる可能性があります。現在収支、今後の保有コスト、ローン残高推移、売却価格を比較して判断します。
「融資のとき、不動産会社からおかしな指示を受けたかもしれない」と感じているオーナーへ
投資用ワンルームマンションの相談では、
「ローン審査は全部、不動産会社に任せていた」
というケースがあります。
そのため購入から数年経って初めて、
「自分の年収はいくらで申告されていたのか?」
「自己資金はいくらと銀行へ伝えられていたのか?」
「他の借入れは正しく申告されていたのか?」
と疑問を持つことがあります。
その場合は、いきなり誰かの責任を決めるのではなく、
融資申込書・源泉徴収票・当時の通帳・LINE・メール・売買契約書・ローン契約書
を集め、
「実際の数字」と「提出された数字」
を比較するところから始めてください。
一般社団法人 不動産トラブル解決協会では、投資用ワンルームマンションについて、購入時の契約・融資経緯、現在収支、ローン残高、賃貸状況、現在査定などを整理し、
「購入時の手続に問題がなかったか」
と、
「現在この物件をどうすべきか」
を切り分けながら、今後の選択肢を検討するための相談を受け付けています。
特に、
年収を実際より多く申告するよう言われた
預金残高を多く見せるよう言われた
他の借入れを銀行へ言わないよう指示された
自分が見たことのない融資資料が存在する
という場合は、購入時の資料やメッセージを削除しないでください。
このタイプのトラブルで重要なのは、
「誰が悪いのか」を最初に決めることではなく、「金融機関に何が提出されたのか」を事実として確定すること。
そして、融資問題の確認と並行して、
現在収支・ローン残高・現在価値
を把握することです。
それが、問題を法的側面と投資運用の両面から整理する第一歩になります。
参考公的情報: 国民生活センター「副業サポートや投資の名目で借金させる業者に注意!」 / 国土交通省 関東地方整備局「宅地建物取引業者に対する監督処分等情報」

