結論|「購入価格より査定額が安い」だけでは違法とは限らない。しかし、購入時の説明は確認する価値がある
投資用マンションを、
3,100万円で購入。
1年後に売却査定をしたところ、
査定価格2,400万円。
差額は、
▲700万円。
このような状況になると、
「騙されたのではないか?」
と思うオーナーもいるでしょう。
ただし、
購入価格より現在の査定価格が低い
という事実だけで、販売会社に違法行為があったとは判断できません。
新築・中古の違い、販売経費、市況、賃料、金利、築年数、物件条件などによって売買価格は変動するからです。
一方で購入時に、
「絶対に値上がりします」
「5年後でも購入価格以上で売れます」
「この立地なら損することはありません」
などと説明されていた場合は話が変わります。
宅地建物取引業法では、宅建業者による契約勧誘について、不確実な将来利益について断定的判断を提供する行為などが禁止されています。
したがって重要なのは、
「今いくらで売れるか」だけではなく、「購入時に何を説明され、それを裏付ける証拠があるか」を確認することです。
「5年後には3,500万円くらいになります」と説明された会社員Aさん
35歳の会社員Aさん。
年収は約650万円。
ある日、勤務中に知らない番号から電話がかかってきました。
営業担当者から、
「老後の年金対策として不動産投資を始めませんか?」
と勧誘されます。
最初は断っていました。
しかし何度か電話があり、
「話だけなら」
と思い、営業担当者と面談することになりました。
「東京のマンションはこれからもっと上がります」
紹介されたのは、
東京都内の築浅ワンルームマンション。
販売価格は、
3,100万円。
営業担当者からは、
「東京の単身者需要は強いです」
「このエリアなら空室の心配はほとんどありません」
「今後マンション価格はもっと上がります」
「5年後なら3,500万円くらいになっていてもおかしくありません」
「いざとなれば売ればいいんです」
といった説明を受けました。
Aさんは、
「最悪でも売ればローンを返せる」
と考え、購入を決断します。
月々の収支は約▲25,000円
購入後の収支は、
家賃収入 約98,000円
ローン返済 約101,000円
管理費・修繕積立金 約15,000円
賃貸管理費等 約7,000円
概算すると、
毎月約▲25,000円。
年間では、
約▲30万円。
それでもAさんは、
「将来値上がりするなら問題ない」
と考えていました。
1年後、別の不動産会社へ査定を依頼
転機になったのは、
Aさんが偶然、不動産投資について調べ始めたことでした。
同じマンションの中古成約価格を見ると、
自分の購入価格よりかなり安く見えます。
不安になり、
複数の不動産会社へ売却査定を依頼しました。
提示された金額は、
2,350万円
2,420万円
2,480万円
程度。
おおむね、
2,400万円前後
でした。
購入価格は、
3,100万円。
差額は約700万円です。
問題点①|購入価格と「市場価格」は必ずしも同じではない
ここで投資用不動産オーナーが知っておきたい重要な言葉があります。
「市場価格」とは?
市場価格とは簡単に言えば、
実際の不動産市場で売買が成立すると考えられる価格水準
です。
一方、販売会社の販売価格には、
物件取得費、
営業費、
広告費、
販売経費、
利益
などが含まれる場合があります。
そのため、
販売価格=その日に中古市場で売れる価格
とは限りません。
特に投資用ワンルームマンションでは、
購入する前に、
「買値」だけではなく「今日売ったらいくらなのか」
という視点を持つことが重要です。
問題点②|「絶対値上がりする」という説明
今回のモデルケースで重要なのは、
査定額が700万円低かったことだけではありません。
Aさんが購入を決断した理由です。
Aさんは、
「5年後には価格が上がる」
「損することはない」
という説明を信用していました。
しかし、不動産価格は将来の、
景気、
金利、
人口動態、
賃料、
金融機関の融資姿勢、
建物状態、
管理状況
などによって変化します。
将来価格を確実に予測することはできません。
宅地建物取引業法では、宅建業者が契約締結を勧誘する際に、不確実な将来利益について断定的判断を提供する行為が禁止されています。
「断定的判断」とは?
投資用不動産オーナーが知っておきたい専門用語です。
断定的判断とは、将来どうなるか確実ではないことについて、「必ずこうなる」「絶対に利益が出る」など、確実であるかのように説明することです。
例えば、
「2~3年後には確実に値上がりします」
「このマンションなら損しません」
「購入すれば確実に収入を得られます」
といった説明は注意が必要です。
反対に、
「周辺相場では価格が上昇しています」
「将来値上がりする可能性があります」
という説明と、
「必ず値上がりします」
という説明は同じではありません。
【解決までの流れ①】まず「高く買った」という感情と「説明上の問題」を分けた
Aさんは当初、
「700万円返してほしい」
と考えました。
しかし、
購入価格3,100万円、
現在査定2,400万円
という差だけでは、
直ちに販売会社の責任を判断できません。
そこで問題を、
①購入価格は当時の市場と比較してどうだったか
②購入時にどのような説明を受けたか
に分けました。
【解決までの流れ②】当時の価格資料を集める
Aさんは、
購入時点前後の、
同じマンション、
近隣マンション、
同程度の築年数、
同程度の面積
について価格情報を調査しました。
さらに複数の不動産会社へ、
「購入当時なら、いくら程度の評価だったと考えられるか」
について意見を求めました。
重要なのは、
現在の査定額だけで比較しないことです。
比較するなら、
購入した時点の市場価格
を確認する必要があります。
【解決までの流れ③】営業担当者とのやり取りを掘り起こす
次に確認したのが、
購入時の証拠です。
Aさんのスマートフォンには、
営業担当者とのメッセージが残っていました。
その中には、
「このエリアは今後も価格上昇が期待できます」
という内容だけでなく、
売却について、
購入価格を下回る可能性をほとんど考慮していないように読める説明
も残っていました。
さらにAさんは、
営業担当者との面談後に、
「5年後3,500万円程度になると言われた」
と自分でメモを残していました。
トラブルになったら「記憶」より「証拠」
投資用不動産の購入トラブルでは、
「言った」
「言っていない」
という争いになることがあります。
そこで確認したいのが、
メール、
LINE等のメッセージ、
SMS、
提案書、
収支シミュレーション、
録音、
営業資料、
手書きメモ、
契約書、
重要事項説明書
などです。
特に、
契約前に作成された資料
は重要です。
【解決までの流れ④】購入時の収支シミュレーションも再検証
Aさんが渡されていた資料には、
35年間の長期収支シミュレーションがありました。
しかし改めて見ると、
Aさんには分からない項目が複数ありました。
そこで、
家賃下落、
空室、
管理費、
修繕積立金、
設備交換、
固定資産税、
金利上昇
などを加味して再計算。
すると、
営業時にAさんがイメージしていたほど単純な収益構造ではないことが分かりました。
「表面利回り」だけを見てはいけない理由
ここでも重要な不動産投資用語があります。
表面利回り
一般的には、
年間家賃収入 ÷ 物件価格 ×100
で計算されます。
例えば、
年間家賃117万6,000円、
物件価格3,100万円なら、
表面利回りは約3.8%です。
しかし表面利回りには通常、
管理費、
修繕積立金、
固定資産税、
賃貸管理費、
修繕費、
空室損失
などが十分反映されていません。
だからこそ、
表面利回り=オーナーが実際に得る利益率
ではありません。
【解決までの流れ⑤】行政相談と専門家相談を使い分ける
Aさんは、
宅建業法上問題となり得る勧誘だったのか、
契約上・民事上どのような対応が考えられるのか
を整理しました。
ここで重要なのが、
行政への相談と、損害回復の相談は目的が違う
という点です。
宅建業者の勧誘行為については、
その宅建業者を管轄する免許行政庁へ情報提供・相談できる場合があります。
一方、
「700万円の差額を取り戻したい」
といった個別の民事上の請求については、
行政相談だけで解決するとは限りません。
その場合は、
弁護士等へ相談し、
契約内容、
証拠、
説明内容、
損害との因果関係
などを個別に検討する必要があります。
【解決結果】「すぐ売る」のではなく、証拠整理と運用改善を優先
Aさんは当初、
「騙された。今すぐ売却したい」
と考えていました。
しかし、
ローン残高は約3,000万円。
現在査定は約2,400万円。
すぐ売却すると、
売却費用も含め、
多額の自己資金が必要になる可能性があります。
そこで、
販売会社との問題
と、
今後の不動産運用
を分けました。
販売時の説明については、
証拠を整理したうえで専門家相談へ。
一方、物件そのものについては、
家賃相場、
管理費、
修繕積立金、
ローン金利、
売却価格
を毎年確認することにしました。
そして、
「購入価格まで戻るまで待つ」
のではなく、
ローン残高と市場価格の差が縮小した段階で、改めて売却を判断する方針としました。
この解決事例から分かる重要なこと
投資用不動産トラブルでは、
「販売会社とのトラブル」と「物件そのものの投資判断」を混同しないこと
が非常に重要です。
販売時の説明に問題があったとしても、
その物件を今日売るべきとは限りません。
逆に、
販売会社に法的責任を追及できなかったとしても、
収益性の低い物件を永遠に保有する必要があるわけでもありません。
つまり、
過去の契約問題
と、
未来の投資判断
は分けて考えます。
購入前なら「今日売ったらいくら?」を確認する
投資用マンションを購入する際、
営業担当者へ、
「5年後いくらになりますか?」
と聞くよりも、
重要な質問があります。
それは、
「この物件を購入した翌日に中古市場で売った場合、いくらくらいですか?」
という質問です。
さらに、
販売会社以外の不動産会社にも査定を依頼します。
例えば、
販売価格3,100万円
第三者査定2,950万円
なら、その差について確認できます。
しかし、
販売価格3,100万円
第三者査定2,300万円
なら、
「なぜ800万円違うのか」
を契約前に確認できます。
この確認だけでも、
高値掴みのリスクを発見する材料になります。
要点整理
投資用マンションの「高値掴み」とは、一般に、その時点の市場価格・収益性等と比較して高い価格で物件を購入してしまった状態を指します。ただし、購入価格が後の査定価格を上回っただけで直ちに違法になるわけではありません。
一方、宅建業者が勧誘時に、
「必ず値上がりする」
「確実に利益が出る」
など、不確実な将来利益について確実であるかのような説明を行った場合には、宅地建物取引業法上の問題となる可能性があります。
購入後に「高く買わされた」と感じた場合は、
購入価格確認 → 購入当時の市場価格調査 → 営業資料確認 → メール・メッセージ確認 → 収支シミュレーション再検証 → 現在価格査定 → ローン残高確認 → 行政・専門家相談 → 保有・売却判断
という順番で整理します。
特に重要なのは、
- 現在価格だけでなく購入当時の相場を見る
- 販売価格と市場価格を区別する
- 「必ず」「絶対」という説明を確認する
- 営業資料を捨てない
- LINE・メール等を保存する
- 収支シミュレーションを再計算する
- 表面利回りだけで判断しない
- 家賃下落を想定する
- 修繕積立金・管理費を確認する
- 金利上昇を想定する
- ローン残高と売却価格を比較する
- 販売トラブルと売却判断を分ける
ことです。
「高く買ったかもしれない」と感じたときに最初にするべきことは、すぐ売ることではなく、「購入時に何を説明され、当時の市場価格はいくらだったのか」を客観的に再構成することです。
再発防止|投資用マンション購入前の5つのチェック
①販売会社以外から査定を取る
購入予定物件を第三者へ査定してもらいます。
②同じマンションの中古価格を調べる
可能であれば過去の売出価格だけでなく、成約価格等も参考にします。
③家賃を周辺物件と比較する
現在の入居者家賃が相場より高い場合、その家賃が退去後も維持できるとは限りません。
④金利・空室・家賃下落を入れて計算する
営業会社が提示したシミュレーションだけで判断しないことが重要です。
⑤「売れば大丈夫」を数字で検証する
購入価格、
現在想定売却価格、
ローン残高、
売却費用
を比較します。
出口戦略は「売れるか」ではなく、「いくらで売れればローンと費用を精算できるか」で考えます。
FAQ
Q1.3,000万円で買ったマンションが2,400万円査定でした。600万円返してもらえますか?
価格差だけで当然に返金を求められるとは限りません。購入時の市場価格、契約内容、販売時の説明、証拠、損害との関係等を確認する必要があります。
Q2.「絶対値上がりする」と言われました。問題ありませんか?
注意が必要です。宅建業者による契約勧誘では、不確実な将来利益について断定的判断を提供する行為が宅建業法で禁止されています。実際に問題となるかは具体的な発言・状況・証拠等を確認する必要があります。
Q3.営業担当者とのLINEは証拠になりますか?
トラブルの事実関係を整理するうえで重要な資料になり得ます。削除せず、日時・相手・前後のやり取りが分かる状態で保存しておくことが重要です。
Q4.宅建業法違反が疑われる場合はどこへ相談できますか?
宅建業者を管轄する免許行政庁への相談・情報提供が考えられます。都道府県知事免許なのか国土交通大臣免許なのかによって窓口が異なる場合があります。ただし損害賠償や契約取消し等の個別の民事問題は、弁護士等への相談が必要になる場合があります。
Q5.高く買ってしまった場合はすぐ売却すべきですか?
必ずしもそうではありません。現在査定、ローン残高、毎月収支、将来修繕、金利、売却費用等を比較してください。購入時の問題と、現在の最適な投資判断は分けて考えることが重要です。
「購入時に聞いていた話と違う」と感じているオーナーへ
投資用マンションの購入後、
「絶対に値上がりすると言われた」
「いつでも購入価格程度で売れると言われた」
「ほとんど自己負担はないと言われた」
「35年間家賃は下がらないと言われた」
「節税効果でマイナス分は戻ってくると言われた」
といった説明に疑問を感じるケースがあります。
大切なのは、
「騙されたと思う」という感覚だけで終わらせず、購入時の事実を客観的に再構成することです。
一般社団法人 不動産トラブル解決協会では、
売買契約書、
重要事項説明書、
ローン資料、
営業資料、
収支シミュレーション、
LINE・メール、
現在の売却査定、
ローン残高
などを整理し、
「購入時にどのような説明を受けたのか」
「現在の市場価格はいくらなのか」
「今売るといくら不足するのか」
「保有を続けた場合の収支はどうなるのか」
といった問題を整理するための相談を受け付けています。
投資用不動産の購入トラブルでは、
「販売会社に問題があったか」
という過去の問題と、
「これから、この物件をどうするか」
という未来の問題があります。
この2つを分けて考えることが重要です。
まず、
購入時の資料を集める。
次に、
当時の価格と現在価格を調べる。
そして、
ローン残高と収支を確認する。
そのうえで、
行政相談・専門家相談・保有・売却という選択肢を整理する。
「高く買ってしまったかもしれない」と気付いた時点からでも、できることはあります。

